このたびCOHJUでは、2025年4月12(土)から5月3日(土)まで大槻拓矢による個展『模糊としかつめ』を開催いたします。
大槻拓矢(1989年 奈良県生まれ)は、大阪を拠点に活動する画家です。2020年に京都市立芸術大学大学院 美術研究科(日本画専攻)を修了。風景や身近なものの写生、古画の模写を通して得た「かたち」を、柔らかな色彩と岩絵具によって再構成し、独自の幻想的な絵画空間を描き出しています。
日々描き溜めた形を写し取り、転写された線をなぞる—そうした反復的なプロセスを通じて制作される大槻の作品は、単なる技巧の積み重ねではなく、形態の曖昧さや知覚の自由さに向き合う探究そのものです。この手法は、私たちが「見る」という行為にどれほどあやうく曖昧な認識を抱いているのかを、静かに問いかけてきます。
本展『模糊としかつめ』では、日常の風景や出来事が、ふとした瞬間に異質なものとして立ち現れる—そんな曖昧で不確かな感覚をテーマに、新作十数点を発表します。写生を出発点としながらも、単なる視覚の再現にとどまらず、「見ること」「描くこと」とは何か、そして日常生活における正誤や善悪といった二項対立から離れた価値や意義—さらには、「そもそも本質は存在するのか?」といった問いに思いを馳せることができるのではないでしょうか。
麻紙の上に大胆な構図で描かれたモチーフは、曖昧さや不確かさといった本展のテーマを力強く象徴しています。また、岩絵具の粒子によって生まれる繊細な凹凸や塗り重ねによる質感が、画面に視覚的な奥行きと物質的な存在感をもたらしています。静けさのなかに深い問いを秘めた作品群を、ぜひこの機会にご高覧ください。
ARTSIT STATEMENT
公園へ写生に出かけた時のこと。
敷地内にある池のそばの石段に、何やら茶色くて、薄っぺらいものが落ちていました。遠目にはそれが何なのかはっきりとは分かりません。鞄からそっと道具を取り出し、その正体を自分自身に悟らせないよう、微妙な距離を保ちながら、慎重に写生を始めました。描き終わってから近寄ってみると、それは濡れそぼった麻袋で、石段にぴったりと張り付いていたのでした。
暮らしの中で、本来は自明であるはずのものが、ふとした拍子に、不明な何かに変わってしまうことがあります。そうした場面に出会えることには喜びがあり、何だか分からないものには、どうにも形容しがたい魅力があります。そのような分からなさを何とか維持しようと、あるものが詳らかになっていくことに抗うのは、どこか滑稽な気もします。ただ、偶にはそういう瞬間があってもいいのではないか、とも思うのです。
INFORMATION
大槻拓矢 個展 「模糊としかつめ」
会期:2025年4月12日 (土) - 5月3日 (土)
レセプション:4/12(土) 17:30-19:00
開廊:火曜 - 土曜 13:00-18:00
閉廊:日・月・祝日
会場:COHJU
住所:604-0981 京都市中京区毘沙門町557江寿ビル1F
TEL:075 256 4707
Email: contact@cohju.co.jp